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食べることは生きること

心を満たす「食べること」

「食べること」は、ただ生命維持に必要な栄養分を体に取り込むことだけの営みではありません。もちろんそれは絶対に欠かせない最も重要なことです。健康に良くないものをとり続ければ、体は悲鳴をあげ、ついには病気になり死に至ります。何をどのくらい食べればよいのか、体によいのはどんな食品なのか、どんな調理をしたらよいのかは、食べたものが自分の体になるので、もっと関心を払うべきです。食品に関する無知こそが命取りになります。

しかし、ただ栄養だけを取ることが「食べる」ことならば、必要な栄養分をカプセルにつめこんで口にすればすむかもしれません。でもそんな食事を誰も食事とは呼ばないでしょう。病院の病人食がおいしくないとよく聞きます。栄養バランスに優れているというだけでは心まで満たすことはできません。

「食べること」は「生きること」

「食べること」をあらためて考えてみると、様々な行動で成り立っていることがわかります。まず献立を考えます。家族がその日食べたいものは何か、栄養のバランスがどうだろうか、今旬のものを食べよう、作る手順はなど大変頭を使います。明治時代から新聞に献立が掲載されてきたのもそれなりの理由があったのでしょう。昔から主婦は献立で悩んできたのです。

さて、献立が決まったら買い物、そして調理、配膳、食事のあと片付け、といった一連の行動が「食べること」です。

さらに食事をしながら、学校での出来事、会社のこと、次の休みは何をしようか、今日のごはんは美味しいけどどうやって作ったのか、などの会話はたあいないけれど、大事なコミュニケーションの場であり、心が癒される時間です。

生きる力、生きる意味

このように「食べること」はただ美味しいものを口にして、栄養をとるだけではなく、一連の複雑な行動がからみあって、人間に「生きる力」をあたえて、心を育てているのです。

さまざまなこと(社会・環境・経済・健康・交流・季節・味覚・幸せなど)を考え感じ、行動する総体が「食べること」なのです。食べることは個人的なことのようですが、実は社会にも大きな影響を及ぼします。何をどのように食べるのかを選択することは、言い換えれば「どのように生きるか」なのです。

「食べること」は、まさに「生きること」そのものといえるでしょう。

著書「食べることは生きること」より抜粋加筆 大瀬由生子

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